出会いの春
大学入学式の日、桜が満開のキャンパスで私は彼女、Kと出会いました。同じ学部で席が隣だったことがきっかけで話すようになり、彼女の明るい笑顔と知的な会話に惹かれていきました。
新入生歓迎会で偶然再会した私たちは、共通の趣味である音楽の話題で盛り上がりました。特に洋楽が好きだった私たちは、お互いの好きなアーティストや曲について語り合い、その時間がとても心地よいものでした。
音楽がつなぐ絆
ある日、Kが「一緒にコンサートに行かない?」と誘ってくれました。それはWhitney Houstonの初来日公演で、彼女が大好きなアーティストでした。私は即座に承諾し、一緒にコンサートを楽しむことになりました。
コンサート当日、彼女はいつもより少しおしゃれをしていて、その姿に胸が高鳴りました。Whitney Houstonの歌声は圧巻で、特に「I Will Always Love You」が演奏されたとき、隣で涙を流すKの横顔がとても美しく見えました。
恋の始まり
コンサートの帰り道、夜の街を歩きながら彼女が「今日は本当に楽しかったね」と微笑んだとき、私は思わず「Kのことが好きだ」と告白してしまいました。彼女は驚いた様子でしたが、「私もMのことが気になってた」と答えてくれました。
それから私たちは恋人同士となり、大学生活は一層輝きを増しました。授業の合間にカフェで過ごしたり、週末には映画や美術館に出かけたり、何気ない日常が特別なものになりました。
将来への夢と不安
大学3年生になると、将来について考える機会が増えました。私は父の経営する会社に入る予定で、一方Kは海外での大学院進学を考えていました。
「遠距離になっても大丈夫だよね?」と彼女が尋ねたとき、私は「もちろん、頑張ろう」と答えました。しかし、内心では不安が募っていました。異なる道を進む私たちが、この先も一緒にいられるのか自信が持てなかったのです。
別れの決断
卒業が近づくにつれ、私たちの間には微妙な距離が生まれ始めました。ある日、彼女が「大切な話があるの」と切り出しました。
「私、海外の大学院から正式に合格通知が来たの。でも、それに伴ってMとは別れた方がいいと思う」と彼女は言いました。
突然の言葉にショックを受け、「どうして?」と問い詰めました。彼女は「お互いの夢を追いかけるためには、別々の道を進む方がいいと思うの」と涙ながらに語りました。
失恋の痛み
別れた後、心に大きな穴が開いたような感覚に襲われました。何をしても彼女のことが頭から離れず、夜も眠れない日々が続きました。
ある夜、彼女との思い出の曲である「I Will Always Love You」を聴きながら、感情が溢れ出しました。歌詞がまるで自分の心情を代弁しているようで、涙が止まりませんでした。
立ち直りへの道
友人たちは心配して声をかけてくれましたが、しばらくは誰とも会いたくありませんでした。それでも時間が経つにつれ、少しずつ前を向くことができるようになりました。
父の会社に入り、仕事に打ち込むことで彼女のことを考える時間を減らそうと努めました。新しい環境での挑戦は大変でしたが、その分成長を感じることができました。
再会の偶然
それから10年が経った頃、仕事で海外の展示会に参加する機会がありました。会場を歩いていると、見覚えのある後ろ姿が目に入りました。思わず「K?」と声をかけると、彼女が振り向きました。
「M?こんなところで会うなんて!」と彼女は驚いた様子でした。お互いの近況を話すうちに、彼女が現地で研究者として活躍していることを知りました。
過去と現在
短い時間でしたが、彼女と過ごすそのひとときは懐かしくも心地よいものでした。「あの頃のこと、覚えてる?」と彼女が尋ね、「もちろん、忘れるわけないよ」と答えました。
別れ際に彼女は「お互い頑張ろうね」と微笑み、私も「またどこかで会えるといいね」と手を振りました。
新たな人生
日本に戻ってからは、さらに仕事に励みました。数年後、私は同僚の女性と結婚し、二人の子供にも恵まれました。家庭を持つことで、心の中の欠けていた部分が満たされていくのを感じました。
しかし、ふとした瞬間に彼女との思い出が蘇ることがあります。特に「I Will Always Love You」を耳にすると、30年前のあの日々が鮮明に思い出されます。
現在の想い
50歳となった今、人生の半分以上が過ぎました。様々な経験を積み、多くの喜びや悲しみを味わってきました。
Kとの恋愛は、私にとって初めての本気の恋でした。その経験があったからこそ、今の自分があるのだと思います。彼女が幸せであることを願いながら、これからも自分の人生を歩んでいきたいと思います。
後記
若い頃の失恋は、人生に大きな影響を与えるものです。しかし、その痛みも時間とともに癒え、新たな道を進む力となります。
もし、同じような経験をしている人がいるならば、伝えたいことがあります。過去の思い出を大切にしつつも、未来に向かって歩んでいくことで、必ず新しい幸せが訪れるということです。